第2話「滝石組は“ベロ”を出せ」

はじめに
 鹿児島で、昭和50年代頃まで流行した池造り・庭の改造のときに、親方やベテランの職人さんと(ぼくは見習い)滝石組をしているとき、滝口の水を落とす部分は“ベロを出せ”とよく言われるものでした。庭のなかにつくられる滝の形態としては、一筋落ち・布落ち・はなれ落ち・段落ち・伝い落ち・糸落ちなどがあります。鹿児島特有のベロを出せは、はなれ落ちの形態になります。
 この‘ベロを出せ’はとても解りやすい滝口の表現方法で、鹿児島の庭のほとんどがこの滝口の形態を使っています。庭でなくても、銭湯の岩山の湯口にも、多い形態です。この形態は、おもに二つの利点があります。ひとつは水量を多く見せられ水量調整も容易なこと、二つめに滝音を響きやすく作れることです。 

上段・下段 ともにベロを出し、ベロ出しの板石を挟むように大きな石を据え滝口に貫禄や重量感を与えます。また、これらで囲まれた部分が空洞になり滝音をより大きく響かせる役目もします 。

仙巌園の“ベロ”

滝口の写真を多く撮ろうと、仙巌園にも小学校以来訪ねてみました。まずは、御殿のまわりの小さな池の滝口や大池の滝口を観察しました。なんとその多くの滝口が‘ベロを出せ’ではないですか。まずは、仙巌園の滝口の写真を見てください。

ベロを出せとは関係ありませんが、観るだけの滝ではない、用法のひとつの例がみられます。橋下の布落ちの滝は、橋があることを聴覚で感じられるように、配されています。地泉回遊式庭園に多い手法です。

 仙巌園の滝石組は、ほとんどが上写真のような‘ベロを出せ’の滝石組でした。鹿児島で、昭和50年代頃まで流行した池造りのほとんども、‘ベロを出せ’です。次の話は、山灯籠(やまどうろう)ですが、これも仙巌園に多くある燈籠です。鹿児島庭園こぼれ話をはじめるときは気づかなっかたのですが、鹿児島で昭和50年代頃まで流行した庭造りは、仙巌園に似せた(写しといかないまでも)庭を造ろうとしたのでは?という疑問を持ちます。しかし、よくよく考えると昭和30年頃から40年代にかけては、庭職人の先輩方も、そうそう京都やその他の庭園を見て回る余裕もないような気もします。また、鹿児島の殿様の御庭に似せた庭を、我が家に造るのだけでも大きな出来事です。そう考えると昭和30年頃から50年代にかけての庭造りは、仙巌園に似せることがいい庭の条件のような気がします。次の山灯籠の話で、考えてみましょう。

温泉の“ベロ”

 鹿児島は温泉の出る銭湯がいたるところに多くあります。下写真のような銭湯もその中のひとつです。銭湯に入り、湯口を見ると写真のような‘ベロを出せ’の湯口が、古い銭湯ほど多いような気がします。なじみの銭湯の湯口をチェックしてみてください。